瑠璃色のマティーニ (後編)

金田の事件簿

マティーニのグラスが真っ青に変わるのを見て、部屋の空気は一瞬にして張り詰めた。私は冷静に、しかし内心は緊張感で満ちていた。

「マスター、あなたは普段、薬を服用するときオブラートを使っているのではないですか?」私は問いただした。

マスターの顔色が変わった。「ぎくり」とし、一瞬言葉を詰まらせた後、うなずいた。「そうだ、いつも使っている。」

「そうですか。」私は続けた。「加藤さんは反社会的な組織ともつながりがあったのではないですか?」

マスターは黙ってうなずいた。その場にいた全員が息を飲む中、松村警部が苛立ちを隠せずに言った。「金田、何が聞きたいんだ。早く結論を言ってくれ。」

高木さんと斎藤さんは、何が起こっているのか理解できずに黙ってこちらを見ていた。高木さんは不機嫌そうに腕を組み、斎藤さんは心配そうに眉をひそめていた。

「まず、この毒殺の犯人はマスターですよね?」私はスティーブ・ジョブズのプレゼンのような気分で話し始めた。

マスターの顔に一筋の汗が流れた。彼は無言のままだった。

「あなたは被害者の加藤さんと長い付き合いがありました。しかし、加藤さんが店内でナンパを始めてから、客があまりリピートしなくなった。キープボトルの数はあるが、減っているものは少ない。それに憤りを感じたあなたは、加藤さんが連れてきた反社会的組織の人間に青酸カリを手に入れる方法を聞いたんでしょう。そして、その青酸カリを酒に入れた。」

マスターは沈黙を保っていた。その沈黙を破ったのは松村警部だった。「でも、青酸カリは強いアルカリ性じゃなかったか?いくら泥酔していたとしても気づくと思うが…」

私は静かに答えた。「その通りです、警部。青酸カリは強塩基性のため、いくら泥酔していてもその味に気づくでしょう。そこでマスターは青酸カリをオブラートに包み、オリーブの中に隠したのです。」

その瞬間、マスターが突然動き出し、カウンターの裏へ逃げ込もうとしたその瞬間、私は一瞬も迷わず彼の前に立ちはだかった。「逃げても無駄です。」と、冷静に言い放つと同時に、彼の肩を掴んで制止した。

「証拠はここにあります。」私はテーブルに置かれたオリーブを手に取り、小さなナイフで慎重に切り開いた。中からオブラートに包まれた青酸カリの粉末が現れると、部屋の空気が一層重くなった。光を反射してキラリと輝くその粉末は、決定的な証拠だった。

「見てください。このオリーブの中に、青酸カリが隠されていました。」

高木さんはその光景に目を見開き、斎藤さんは顔を青ざめさせた。

マスターは声を震わせながら言った。「違う、違うんだ!俺は…俺はただ、店を守りたかっただけなんだ!」彼の目には涙が浮かんでいた。「加藤が店をダメにしていくのが耐えられなかったんだ。毎晩、彼が客に絡むのを見るたびに、胸が締め付けられるようだったんだ。」

高木さんはその言葉に反応し、怒りを込めて叫んだ。「それで人を殺すなんて!信じられない!」斎藤さんはただ呆然と立ち尽くし、震える手で顔を覆った。

松村警部は冷静に言った。「後は署で聞きますよ。」彼はマスターに手錠をかけながら、私に向き直った。「しかし、なぜ青酸カリだってわかったんだ?」

私は自慢げに答えた。「私は化学者ですから。」

高木さんと斎藤さんは茫然とした表情でその場を見つめていた。事件は解決したが、ここにはまだ多くの感情が渦巻いていた。マスターの叫びは、彼の中に積もり積もった怒りと絶望を象徴していたのだろう。

私は静かに立ち去りながら、この事件が示す人間の闇を思い返していた。バー「ニトリル」の赤い照明が、まるでその闇を象徴するかのように揺らめいていた。

タイトルとURLをコピーしました